1ヒラッ…
机からコピー用紙が滑り落ちた。
掴もうと体をひねり手を伸ばしたが間に合わず、床へと落ちてゆく。
その先に、うちで飼っている子実装がいた。
スパン
「テエ……」

* * *

2-1滑り落ちたコピー用紙は仔実装に当り、両足を脛辺りから切断していた。

「テェエ!?ワタ、ワタチのアンヨがぁ!アンヨ切れたテチ!テエエェェェェエエエン!!」

痛みの余り、足を振りたくって切断面から緑と赤の入り混じった血を撒き散らし、ぶりぶりと脱糞しながら
火が点いたように泣いている。

「……なん…だと……」

こいつ、こいつ、こんなにも脆い生き物だったのか……。

こいつは俺の部屋のある二階に来る事はなく、世話も全て妹がやっている為、
俺が一階のリビングでくつろいでる時、甘えに来たら適当に撫でる程度の接し方だった。
嫌いでも好きでもない。興味が無い為、俺の仔実装についての知識は「脆弱で頭が悪い」程度の漠然としたものだった。

こうして今、想像を遥かに超えた仔実装の脆さを目の当たりにして、軽い眩暈を起こすほどの不思議な感動を覚えた。
2-2

「テエエェェェェェン!?イモウトさまぁ!イタイテチュ!アンヨイタイテチュ!!テェェ……」

相変わらず泣いている仔実装の近くに、錠剤程の大きさの丸い物が二つ並んでいる。
切断された、仔実装の足だ。

俺はそれを摘み上げた。

柔らかい。

指先に少し力を込めた。

「ちゅり……」

小さく湿った音を立てて、仔実装の足はあっけなく潰れた。

* * *

3-1妹を呼んで、一緒に仔実装の手当てをする。

妹に言われるまま、栄養ドリンクをタッパーに入れて、仔実装を浸した。
それでようやく落ち着いてきたようだが、皮膚は血色が悪く、小刻みに震えている。
失血が多かったのでかなり体力を消耗していた。
仔実装が傷ついた時、すぐに手当てをしなかった為だ。

痛みで床を転がり回り、その所為で余計に血を撒き散らす仔実装を、死にかけて動かなくなるまで、俺は何もしなかった。

「大丈夫かな……こいつ…」

到底助かるとは思えず、俺は既に、妹にどうやって許してもらうか、妹をどうやって慰めるかを考えていた。
こんな事を言ったのは話をそちらに持っていく為だ。

だが、妹の言葉は意外なものだった。

「大丈夫だよ。こうしておけば明日には足も生えて、明後日には歩けるようになるから」
3-2 「嘘…だろ?…いや、治るのは何よりなんだが…足が切れて、血があんなに……」
「本当だよ。お兄ちゃん、家で飼ってるのに何にも知らないんだから…。本当は切れた足があればもっと早く治るんだけどね」
「悪い、こいつが暴れていた時にどこかに転がしたみたいで、見つからなかったんだ」

俺は嘘を言った。
指先で磨り潰した足と靴は、米粒程の手ごたえのカスとなり、洗面台で洗い流した。
今頃下水道を流れているだろう。
なんであんな事をしたのか、自分でも解らない。

「テェェ・・・クック無くなっちゃったテチィ・・・」

仔実装が心底悲しそうに呟くのが聞こえた。

* * *

4-1 二日後、仔実装の怪我は完治した。

治療中の世話を俺がしたお陰で、以前より懐いてくるようになった。

「テエ・・オニイチャンサマのオテテあったかいテチ。大好きテチ」

あれ以来、俺も仔実装の事が大好きだ。

あれから、うちの仔実装の名前が「ティー」という事、偽石の存在、再生力、繁殖の方法などを知った。

あまり詳しくは調べていない。
気に入ったゲームの攻略本は読まない主義だ。

知りたい事は、全てティーから教えてもらおう。
4-2 「最近ずいぶん可愛がってるじゃない」

後ろで見ていた妹が言った。

「ああ、そうだな」
「・・じゃあ、頼めるかな。明日から4日間、部活の合宿で留守にするから、その間ティーの世話してくれる?」
「わかったよ。けど、俺は実装石の事はよく解らんから、餌と水をやるくらいしか出来ないぞ」
「大丈夫だよ。じゃあよろしくね」

俺はさりげなく”実装石の事をよく解らない俺”という予防線を張った。これで後はどうにでもなる。

俺はティーと過す4日間の予定を考え始めた。
決まっているのは4日後にこいつが死ぬという事。
それまでにどれだけの興味を、好奇心を、満足させられるだろう。
俺は手の中のティーを見ながらそう思った。


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